野生児上等!
子どもの頃の遊び場は山と川と田んぼと海だった。
誰かの土地でもお構いなしに入っては遊びまわっていた。
とは言っても勿論ルールはある。
水を張ってから稲を刈る前までの田んぼは入ってはいけない。稲を刈った後も、とっこ積(藁を積んで家の形にしたもの)は壊してはいけない。
川や山に仕掛けがしてある時は触ってはいけない。
畑の作物は基本取ってはいけない。(但し、大方収穫が終わって、形が悪いものや、鳥のために残して有るものはOK)
など、田舎の子どもならではのルールが数々あった。
多くはガキ大将から受け継がれ、何処が危険か、何処に何が生えていて、何時が食べ頃なのかを把握していくのが大事な事だった。
子どもの頃は色んなものを勝手に取って食べていた。
スモモ、ヤマモモ、枇杷、グミ(木の実)、柿、杏、みかん、金柑、栗、椎の実、アケビ、岩イチゴ、無花果、ナツメ。
季節ごとの果物はご馳走だった。
山菜取りにも良く行った。ゼンマイ、ワラビ、こごみ、石蕗(ツワブキ)、フキノトウ、ツクシ、セリ、山芋などは子どもにとっては遊び半分だったが立派な食料だった。
川には鰻を獲りに行った。前日に罠を仕掛け、引き上げに行くのによく付いて行った。
鰻が獲れた時は家の外で裁いて、そのまま醤油を塗りながら七厘で焼いて食べる。まぁ今のBBQの様な感じだろうか。
アサリの季節になると、家から海を眺めた。
午前中や、午後の早い時間から引き潮になる日はアサリ獲りが楽しみだった。
幼馴染のみっこちゃんを誘って海まで降りていく。子どもの足でも30分くらいで着いた。
バケツと熊手を持って行けばOKだ。ちょっと掘れば直ぐにバケツに一杯になった。
でも重たくなるのと、食べるだけ獲るのがルールだったので、バケツに半分ぐらいで終わりにしなければいけない。
それでもつい夢中になってしまうので、満ち潮が来て、よくパンツを濡らした。
沢山獲り過ぎた時は、祖母の生家の叔母さんのうちや本家に寄って分けて帰る。
そうしないと、帰り道は登りで、一時間くらい掛かるので大変だからだ。
朝獲れば夕飯に、夕方戻れば朝ごはんにアサリの味噌汁を出してくれた。
自分で獲ったアサリの味噌汁は格別に美味しかった。
小学生3年生位になると、よく釣りに連れて行って貰った。
子どもなので、磯釣りだったが、コチやキス、オコゼ、イシモチなどが釣れた。
小さい船を持っていた叔父は時々ナマコ獲りにも連れて行ってくれた。
私は水中眼鏡で海の中を覗くのが好きで、ゆらゆらと船に揺られながら何時までも海の中を覗いては、首の後ろを日焼けして真っ黒にしていた。
牡蠣も獲りに行った。
先ずは牡蠣を岩についている状態から蓋だけ外して剥き身にし、塩水で洗って食べる。
飽きたら今度は持参したポン酢をかけて食べる。
ひとしきり食べたら、食べる分だけを殻から外して身だけをバケツに入れる。
そうすれば戻ってすぐに調理出来るからだ。殻から外して持って帰った時は炊き込みご飯か、煮物か、カキフライだ。
それも海が近いから出来る事だったと思う。
東京に出てきて、潮干狩りに誘われて、久しぶりに腕が鳴った。
でも実際行って見て驚いた。入場料が必要だったからだ。
それに、獲った分はすべては持って帰れるわけではなく、キロ幾らの別料金が掛かった。
田舎では当たり前に獲っていたアサリは東京では有料のレジャーで、食べるものを獲るというよりは潮干狩り自体が目的だった。
考えてみると、都会ではほとんどのものが有料だ。
水仙を売っているのを見た時も驚いた。水仙は何処にでも咲いている花だったからだ。
山菜は生ではお目にかかれないし、鰻は高級料理だ。
そして、東京で出会った人は大抵が鮎が好きだ。八王子には川魚を囲炉裏端で焼いて食べさせる料理屋まである。しかも結構お高い。
私の住んでいた所は海が近いせいなのか、わざわざ川魚を食べる人は居なかった。
鮎は取り放題だったので夏の子どもの遊びで獲って帰っても、「猫またぎ」と呼ばれて、猫も食べないので、捨てて来いと言われた。
だから東京に来て、川魚が重宝されているのを見ると、「へー、所変われば価値観が違うんだな」と感心したものだ。
若い頃は東京の食べ物が何でも珍しかったし、美味しいと思った。
握り鮨、うな重、焼肉は東京で初めて食べた気がする。
おしゃれな店で、お高い料理を食べるのが好きで、自分も都会の人間になった様な気がして嬉しかった。
でも最近は子どもの頃がいかに贅沢だったのかを痛感している。
今では田舎も時代の流れに乗って、子ども達が野山を駆け回る事は無くなった様だ。
物騒な事件も起きる。
昔は何処で遊んでいても、いつも誰かが見ていてくれて、悪いことをしたら誰もが怒ってくれた。
そんな時代が懐かしい。
娘にそんな話しをすると「野生児だね~」と笑われた。
確かに野生児だった。でも、娘よ、貴女には判りようも無いことだけど、山の野生の枇杷の木に登って、冷たくないけど
自然な甘みの枇杷を食べながら眺める夕日はとっても素敵な風景なんだよ・・・・。