碧い鱗

青が好きです。魚の体を覆っている鱗の様に今の私を形成している想いでや出来事をチラチラと散りばめて書こうかと・・・

じいちゃんの遺品

じいちゃんの遺品を整理する事になった。といっても昔の人は荷物が少ない。

礼服用の着物と、普段着位しか無かったが、押入れの置くにとんでもないものが隠してあった。

 

祖母が押入れから次々と物を出し、私と大叔父が座敷で受け取っていたら、「ひゃー」と押入れから叫び声が聞こえた。

祖母は慌てて押入れから這いずり出て、大叔父に捕まって震えながら、「お、奥に、奥に・・・」と指を差した。

大叔父が入って出てくると、手には一升瓶が握られていた。

それはマムシ酒だった。

祖母が蛇が大嫌いで、「これか?」と大叔父が差し出した瓶を直視せず、腰を抜かした格好であとすざりした。

「はよー捨ててこんね!」と祖母は叫んだが、大叔父は「これは売れるったい。おいが持って帰るけん」と風呂敷に包んだ。

 

一升瓶は飲んだ形跡は無かったらしい。私もまじまじと見たわけでは無かったが、蛇が上向きで、とぐろを巻いて沈んでいた。

「ヨシオさん(じいちゃんの名前)が作らしたとやろか?」と大叔父は不思議がったが、祖母は「こがんとば隠して」と怒っていた。

 

謎はすぐ解けた。

三角形に隣り合った家のみっこちゃんのじいちゃんと、私のじいちゃんと、みなえちゃんの大叔父にあたる人と三人で良く酒を飲んだり、マージャンしたりして、仲良しだった。

みなえちゃんの大叔父さんは私のじいちゃんが死ぬ一年ほど前に亡くなっていた。

私は原因を知らなかったが、私のじいちゃんとみっこちゃんのじいちゃんはかなり落胆したらしい。

その頃、じいちゃんは体調不良を覚えていたらしい。そこで、みっこちゃんのじいちゃんがマムシ酒を拵えて渡したらしいのだが、大の蛇嫌いの祖母の前に出すことが出来ず、押入れの奥に仕舞ったようだ。(寝かす意味もあったかもしれない)

 

みっこちゃんのじいちゃんは、みなえちゃんのじいちゃんが亡くなって、更に私のじいちゃんまで体調が悪くなって死なれたら寂しくて仕方ないから、祖母の蛇嫌いは知っていたが、何とか元気になって欲しいと自分でマムシを捕まえて作ったらしい。

 

みっこちゃんのじいちゃんは祖母に謝ったらしい。祖母は最初は「あんな物」と言って怒っていたが、みっこちゃんのじいちゃんの気持ちと、私のじいちゃんの気遣いに気づき、「そがんならそうと、言うてくれるぎ良かったとに、マムシ酒を飲んで長生き出来るとやったら、おいは我慢したとに」と泣いた。

 

祖母はじいちゃんが亡くなってから涙もろくなっていた。

 

みっこちゃんのじいちゃんは私のじいちゃんが死んでから元気を無くし、結局それから一年もしないうちに亡くなった。大イビキをかいたまま亡くなったそうだ。多分脳の病気だろうと今ならわかる。

葬式の日、農家で広いみっこちゃんの家で遅くまでおばちゃん達が話していた。

「やっぱい、呼ばしたとかね」

「寂しか、寂しかて言いよらしたけんね」

「今頃三人で飲みよらすばいね」

皆は私のじいちゃんが亡くなった時から予測していたかの様に話しをしていた。なので、葬式だったがなんとなくほんわかした空気が漂っていた。

 

あのマムシ酒は売れて、そこそこの金額がついたらしい。それと皮のケースに入った古いカメラが二台もあったが、それは父の弟が形見として受け取った。

一台は普通のカメラで、もう一台は上から覗くタイプのカメラだったと記憶している。

私はじいちゃんがカメラを持っていた事に驚いたが、考えてみたら私の写真は二人に引き取られた頃からある。

 

じいちゃんの遺品はわずかばかりの衣服とカメラとマムシ酒と、そして不器用な愛だったのかもしれない。