碧い鱗

青が好きです。魚の体を覆っている鱗の様に今の私を形成している想いでや出来事をチラチラと散りばめて書こうかと・・・

さらば巻き爪

私は両足の親指が巻き爪で長年悩まされていた。
巻き爪になってしまったのは、あのバブル期、毎日ハイヒールを履いて闊歩していた頃に違いないと思っている。
いつの間にか親指の爪の両側が内側に食い込むようになっていた。
爪が肉に食い込んだままだとそれはそれは痛いのだ。

なので、ついつい深爪をする事になる。
食い込んだところを深めに切り、食い込んだ爪をほじくって取る。

そうすると痛みはなくなるからだ。
そうやって長年過ごしてきた。勿論、「巻き爪矯正」で直せる事も知っていた。
でも、「通院が面倒」というのと、「結構高価」と言う事で、いろんなことの二の次になっていた。

しかし今回の痛みは違った。例のごとく食い込んだ爪を取っても痛みが治まらない。
寝るときに、毛布が当たっただけで痛いのだ。

まだ寒いこの時期なのに、右足だけ外に出し寝る羽目になった。
お酒を飲むともっと痛い。
日曜日、あるレストランでミニライブをやり、仲間達の演奏で歌って、その後恒例の打ち上げで、上機嫌で飲んだのだが、
家に帰って風呂に入る頃に右足の親指がズキズキしだした。
「今回は尋常じゃ無い位痛い」と旦那に訴えても、「ふーん、大変だね」と言うだけだ。
痛みは当事者じゃないと判らない、そうとは判ってはいても言わずには居られないのだ。

ズキズキする右足を布団の外に出し、痛みで眠れない私の横で大イビキをかいている旦那がことさら恨めしく、殴る拳にも力がこもった。
それでも酔いが醒めれば歩くことは出来るし、何かにぶつけなければ大丈夫。
月曜は銀行に行く用事があったので、会社を休み一日ゆっくりしたり出掛けたりしていた。だから足の痛みもたいしたこと無かった。

火曜日、普通に客先に行ったのだが、現在常駐している客先は市ヶ谷駅から15分位歩く。
いつもならかなりの早歩きなのだが、親指の痛みのせいで早く歩けない。
そして、歩いたせいか段々痛みが増して来た。お酒も飲んでないのにだ。
これはもう矯正するしかないのかも知れないと思い、仕事帰りに行ける病院をネットで探してみた。
病院で対応しているのが皮膚科と整形外科だった。家の近所にもあったが、病院は診察時間が終わるのが早い。
どうしても今日行きたいと思っている私は、診療時間が遅くまでやっていて、今の現場から近く、予約が出来る所で探してみた。
飯田橋駅の近くに19時まで予約出来る皮膚科を見つけ、ここなら歩いて15分位で行ける。
とりあえずキープ。

巻き爪矯正をやっているのは病院だけでは無い。
巻き爪矯正を専門でやっているサロンもある。サロンのメリットは終了時間が長い事と、フットケアも出来ると言う事だ。
サロンの場合はプラスチックの様なプレートを貼って矯正をする方法が多い。

プレートの上からジェルネイルも出来て見た目も綺麗だ。
金額は大体6000円から10000円位。
爪の巻き具合により、矯正完了までは半年位かかるが、プレートを貼れば直ぐに痛みが取れると書いてある。
隣の駅から歩ける場所に一箇所見つけた。

さて、病院にするか、サロンにするかだ。
サロンでは医療行為は出来ないとある。そりゃそうだ。でもフットケアをしてくれるのは魅力だと思った。
しかし一番近い店でも徒歩25分くらいかかり、長く歩くことを懸念した私は、徒歩15分の一番近い皮膚科に行くことに決め、飯田橋駅近くの病院に予約を入れた。

終了時間後直ぐに出て、靖国神社を抜け、警察官が物々しく警備している朝鮮総連の前を通り、飯田橋駅西側の「飯田橋グラン・ブルームサクラテラス」という比較的新しいビルに入っている「飯田橋駅前さくら坂クリニック」に到着した。
病院はとても綺麗だ。受付の人も愛想が良い。

(クリニックのマークがひな祭りの菱餅を連想させる感じが面白かった)
予約をしてあったので直ぐに診察室に通された。若い担当医が問診表を元に診察を始める。

医師「随分腫れてますね、食い込みも酷い」
私「そうなんです、とにかく今回は痛みが酷いのです」
医師「これくらいの湾曲している爪の場合プレートで矯正するのですが、先ずは腫れがひかないとだめですね」
私「プレートで矯正する場合お幾らですか?」
医師「保険がきかないので8000円くらいです」
私「それはサロンなどと同じ位の金額なので想定内ですが、今日は出来ないのですよね、痛みの元を取るだけで」
医師「そうですね、爪を切って、中の食い込んでいる部分をとり、腫れがひくのをまってから後日プレートで矯正ですね」
私「プレートをつけてからも時間がかかるのですか?」
医師は爪の切り方のチラシを見せながら説明してくれた。元々巻き爪になるにはいくつかの原因があるが、一番重要なのは爪の切り方なのだそうだ。
深爪をしないようにし、爪の先端は丸く切らず指の先端が平らになるようにしなければならないそうだ。
爪の両端は特に深爪してはいけないと言っていた。

私はすべての爪を丸く切っている。そう子どもの時に教わったからだ。
小学校の時、「衛生検査」なるものがあり、クラスの衛生委員が抜き打ちでチェックした。
「ハンカチとチリ紙(今で言うティッシュ)と爪」の検査だ。
私の子どもの頃は爪の白い部分が長いと不潔とされてきた。爪が指先から出ていなくても白い部分が伸びていると不潔だった人として
検査結果として名前を呼ばれてしまうのだ。
プールが始まる頃には足の爪も検査対象になった為、皆結構深爪だったと思う。
その後、冒頭で書いたようにハイヒールを履くようになって私の巻き爪は完成されていくのだ。

私は考えた。矯正しても爪の切り方に気を配らないといけない。手の指なら見やすいし、たまにはマニキュアも塗るので、頻繁に手入れが出来る。
しかし、足の爪はそうはいかない。体も硬くなり、なおかつ現在の腹の肉の状況では「ふん!」と足を寄せて、一気に切らないと苦しくなるので時間との勝負になっている。
デブにとって足の爪の手入れというのは苦行でしかない。
事前学習していた私は、病院では部分的に爪を取り除く手術が出来ると知っていた。
ネットの説明では「時間が無い場合、爪の形に拘らない場合切除手術も有り」とあった。

私は聞いてみた。「じゃあ、爪が生えてこない手術は出来ますか?」
医師「え、出来ますよ、湾曲している部分を根元からとり、爪が生えてこないように焼く方法があります。取っても良いならその方が後々は楽ですよ」
私「矯正は時間がかかるし、爪の切り方も面倒だし、もう爪の形に拘る年齢でもないので取ってもらってもいいです。今日出来ますか?」
医師「出来ますよ、そうですか、切除でいいなら保険もきくし、そのほうが良いでしょう。やりましょう」
と急遽手術してもらうことになった。
とにかく私は今すぐ何とかして欲しかったのだ。

処置室に移り、局部麻酔をする。
麻酔は針を刺した瞬間より、麻酔薬を入れるときの方が痛い。
「ううー」と唸った私に、「大丈夫ですか?痛いですか?」と医師が気を使った。
「大丈夫です。歯茎に麻酔するより、爪が食い込むより痛くないです」と答えた。
麻酔をして処置が始まって直ぐ「あー」と医師が言ったので、「どうしたのですか?」と聞くと、なんと爪の中で食い込んでいた場所が膿んでいたそうだ。
「これは痛かったはずです」
私は「病院を選んで正解でした」と言った。
「そうですね、サロンなどでは処置出来なかったでしょうね」そう若い医師は食い込んだ爪の一部を取り除き見せてくれた。
5mmほどの爪が食い込んでいた。
そして、根元まで切除したあと電気で焼く処置を行い、賞味30分ほどで手術は終わった。

若いと思っていたが医師は院長だった。

膿んでいたのもあって次の日も来るように言われた。
お風呂はシャワーだけにし、処置した場所を濡らさないように、暫くはお酒は禁止と言われた。
「あのー土曜日くらいなら大丈夫ですよね」と私は心配になって聞いた。土曜日は飲み会を予定しているからだ。
「まあ土曜日あたりなら良いでしょう。でもそれまではこれ以上化膿させないように注意してください」そう釘をさされ、処方箋を貰って帰った。

料金は初診料込みで6340円だった。
薬は化膿止めと鎮痛剤と胃薬が出て730円だった。

麻酔が切れた時はズキズキと痛かったが、食後に鎮痛剤を飲んだ後はさほどでもなかった。
ヒールがある靴は暫く履けそうに無いので、帰りに包帯していても履けるサイズの靴を買った。まあこれは仕方ないとしよう。

感想は「ざまあみろ!巻き爪め!」だ。
これで長年悩んでいた巻き爪#1は消え去った。まだ後三箇所残っているが、今のところは問題無いのでほおって置くことにする。問題になったら順次取り除いていけばいいのだ。
今までは漠然と「矯正」でと思っていたけれど、私は今後も切除する方を選ぶ事にする。
麻酔は痛いが、我慢出来ないほどではないし、何と言っても安い。
それに一箇所ではなく、左右の親指の両側を取ってしまえば爪の形も揃うし、見た目も問題なくなるだろう。
今度は痛くなったら直ぐに医者に行くことにしようと思った。
その時はストッキングではなく、靴下で行くことも忘れないようにしないといけないとも思った。
これからはなるべく平らに爪を切るようにする。それが今回の大事な教訓だ。
そして、潤滑に足の爪を切るためには痩せなければと漠然と思うのだった。