碧い鱗

青が好きです。魚の体を覆っている鱗の様に今の私を形成している想いでや出来事をチラチラと散りばめて書こうかと・・・

何年か前に書いた拙い小説

マツリカの時:終

一月二十五日、予定通り店を休みにしたまつりの一行は大蔵、安田と待ち合わせて湯島天神まで出掛けて行った。 この日雨は降っていなかったが前日からの冷え込みで一日曇天が予想された。 昨日から何を着ていくか悩んでいた茉莉花だったが、結局いつもの軽装…

マツリカの時:十二

とうとう江戸で正月を迎えてしまった。 暮れには長屋から引っ越してきた文太を迎え、少々手狭になったまつりだが、何とか無事正月を迎えることが出来た。 晦日まで店を開け、いつもより早仕舞いをしようと思ったが、掛取りに走り回るお店の奉公人や、暮れに…

マツリカの時:十一

暮れも押し迫って、海風も益々冷たく感じる頃、文太に新たな試練が襲い掛かった。 このところ食は細くなったままだったが、小康状態を保っていた文太の父親が、ことのほか冷え込んだ朝、厠に行こうとしたまま、大量の血を吐いて倒れた。 直ぐに医者に診ても…

マツリカの時:十

師走に入り、坂を上って吹く潮風がますます冷たく感じる様になった。 先日の誘拐騒ぎは増田の働きかけもあって、少々の取調べはあったものの、雛屋はかどわかしの罪で菊太郎と共に江戸払いとなり店を畳むことになったそうだ。 政次は余罪もあって遠島になり…

マツリカの時:九

霜月の晦日前日、その日は朝から雨が降っていた。久しぶりの雨だが、冬も押し迫ってきているため気温もぐっと下がり、 このままだと雪になるかも知れないと言う空模様だ。 「こんな日に遠出は大変だけど、藩の御用じゃ仕方ないですね。気をつけて行ってくだ…

マツリカの時:八

秋も深くなり、師走に向けてなんとなく店も気持ちも慌ただしくなり、それでもなんとか平穏無事な日々を過ごしていたある日、 安田が酉の市に行こうと誘いに来た。 今日は目黒の大鳥神社で酉の市が開かれると言う。酉の市に行って、ついでに横山のお店まで足…

マツリカの時:七

開店当日、お昼前に既にお客が並んでいた。特に宣伝したつもりは無かったが、 長崎帰りの親子の店と言うことと、大工の福松が試食のお焼き(お好み焼きなのだが)を宣伝してくれたのか注文もほとんどがお焼きだった。 イカを炒めて、葱と白菜と紅しょうがを…

マツリカの時:六

出発の日、朝靄はあったが、好天気になりそうな日だった。 おつた、長兵衛、与助夫妻に見送られ朝七時頃寮を出発した。 ここから飯能までは文左衛門の足で二刻ぐらいだそうだが、慣れない私たちがいるので、昼までに着けば上々らしい。 しばらくは山あいの道…

マツリカの時:五

お祭り当日、いつもはのどかな山間の田園風景のこの村も、朝から賑わいを見せていた。 普段こんなに人が居たのかと思うほど往来も多く、文左衛門のところにも来客があったり、与助に指示を出したりで忙しい。 そんな中、文左衛門は私と茉莉花とおふきを座敷…

マツリカの時:四

次の日からは毎日勉強になった。教える文左衛門も大変だが、何しろ覚えなくてはいけないことが多い。 午前中は文左衛門から講義を受け、午後からは座談しながら気になったことを話しあっていく事に決め、講義の題材は文左衛門が決めた。 時間や日にちの数え…

マツリカの時:参

「コケコッコー、コケッコケッ、ケーコッ」 (何そのアラーム、誰のだよ、せっかくのキャンプなのにアラームで起きるのは勿体無い。) 「え、アラーム」と由佳は布団を跳ね上げ、 「夕べは確か、変な話をして、夢だったのかな」と周りを見たが、畳の部屋に床…

マツリカの時:弐

ふきは走っていた。こんなに早く走るのは幾つの時以来だろうと思うくらい一生懸命に走っていた。 早く誰かに知らせなければ。跳ねるように下り道を走っていく。 彼等の事は村長から聞いたことはあった。でも他人事の様に思っていた。 まさか自分が遭遇すると…

マツリカの時:壱

東京オリンピックの誘致も決まり、なんとなく浮かれ出した二0十三年の秋。 東京郊外に住む楠田家では、予定していたキャンプに出掛ける準備で忙しい。 車で二時間ほどの近郊で自然を満喫できるお気に入りのキャンプ場に友人家族と一緒に一泊する予定だ。 「…

マツリカの時:序

山がざわめいた気がした。 立ち止まり耳を澄ましてみたが、鳥たちは特に騒いでいない。 木々の間から空を仰ぎ見ても青空は見えるが、さしずめ天気が変わるようでもなさそうだ。 もう少し奥まで行ってみようと思っていたが、何となく気が削がれた。 アケビは…